御機の五 和歌の枕詞のアヤ③

いさなぎは おひゆきみまく
ここりひめ きみこそなみそ
なおきかず かなしむゆえに
きたるとて ゆづのつけくし
おちりはお たひとしみれは
うぢたかる いなやしこめき
きたなきと あしいきかえる
そのよまた かみゆきみれは
かまなこと いれすはちみす
わがうらみ しこめやたりに
おわしむる つるぎふりにげ
えびなくる しこめとりはみ
さらにおふ たけくしなくる
これもかみ またおいくれは
もものきに かくれてももの
みおなくる てれはしりぞく
えびゆるく くしはつけよし
もものなお おほかんつみと
いさなみと よもつひらさか
ことたちす いさなみいわく
うるおしや かくなささらは
ちかふべお ひひにくひらん
いさなぎも うるわしやわれ
そのちゐも うみてあやまち
なきことお まもるよもつの
ひらさかは いきたゆるまの
かきりいわ これちかえしの
かみなりと

妻を失ったイサナギは悲しみが深く、シラヤマ姫の制止を聞かずイサナミを一目見たいと窟に入りました。窟の中でユヅの黄楊櫛の端に植えられた太い歯を折り火をつけかざしてみると、死後時間が経ったイサナミの亡骸には蛆がたかっていました。
生前の面影を追い求めてきたのに、なんと汚らわしく変わり果ててしまったことかとイサナギは気落ちして足取り重く帰って行きました。

その夜、イサナギは夢の中で再び窟に入りました。
夢の中に現れたイサナミは「私が汚れて変わり果ててしまった現実を受け入れず、地の底までわざわざ来て私に恥をかかせましたね。恨みに思いますよ。」と言うなり、八人の醜女に命じて挑み掛かってきました。
イサナギは後ろ手に剣を振り回し必死に逃げましたが、醜女はしつこく追ってきます。

坂道を木の根や枝に捕まって這い登る様に逃げていくと、ふと掴んだ蔓に山葡萄が実っていました。イサナギは剣で蔓を切って投げると、醜女は山葡萄の実を争って貪り食べ、食べ終わると再び追って来ました。

今度は身につけていた竹櫛を投げると、これも拾って噛み砕いて食べ、また追ってきます。

あわや追いつかれようとした時、イサナギは桃の大木の後ろに逃げ込んで、桃の実を投げつけました。すると醜女は後ずさりしながら消え去りました。

山葡萄はさほど霊力がなく、櫛は竹より黄楊の方が優れている、桃の霊力は素晴らしく、後にイサナギは桃を「オホカンツミ(大神つ実)」と称しました。

醜女を退けたイサナギはイサナミに永遠の別れを申し渡します。

まだ恨みの心が解けないイサナミは言います。「なんと悲しい事でしょう、私に辱めを与えたまま離れて行ってしまうのですね、それならば私はあなたの領民を毎日千人殺しますよ。」

イサナギは毅然と答えます。
「本当に悲しい事だ。心情は分かるが、せっかく一緒に苦労して国の礎を築いて来たのだから、お前が千人殺すなら、私は千五百人生まれるようにしてみせよう。」

こうしてイサナミにコトダチ(事断ち)をしたイサナギはヨモツヒラサカに「限り岩」を立て夢から覚めました。
この限り岩は「道返し(チカエし)の神」といい、この世とあの世を自由に行き来出来ないように隔てる岩なのです。

古事記でも有名な黄泉比良坂での事断ちの話はホツマツタヱでもほぼ同じ内容でした。夢の中という事で実際に黄泉の国に行ったとされる古事記より現実的に書かれています。また、 当時の桃が如何に神聖なものであったかが伺い知れる内容です。

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